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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

「御免なさい、本当に私何だか急に胸が一杯んなっちゃったのよ――こんなにして御飯がたべられるなんて――一人で暮すの全く厭よ、お浸しがたべたいと思って小松菜買うでしょう? どんなに小束買ったって一度で食べ切れないから、翌日もまたその翌日も小松菜ばっかり食べていなけりゃならないんだもの――しまいには腹が立って蹴っとばしてやりたくなるわよ」

しんみりし、陽気になりしつつ彼女らは食事を終った。二人はそれから散歩に出た。寝しなに、志野が、

「ああ、あなたお隣の人見た?」

と訊いた。

「いいえ――いたの? 昼間も」

「うん、この頃いるの――カフェーなんぞへ出てる女だから、あなたあんまり深くつき合わない方がいいかも知れないわ」

房は、単純に、

「そうお」

と答えた。

二

二十日ばかり前のことであった。

或る晩、房は医者に行った。一ヵ月程以前から彼女は健康が冬じゅうのようでないのを感じていた。去年の秋、須田の家へ仲働きとして入って以来、何ともなかったのに、時候が暖かくなるにつれ、却(かえっ)て工合が悪かった。客があり、二階へ往復の劇しかった夜など、四肢の怠(だ)るさと、亢奮とで、気持わるく体をほてらせたまま一睡も出来ないことがあった。