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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
私はホッと安堵してそれからボートを漕ぎ出した。間もなく日が暮れて夜が来た。激しい空腹と疲労とは私を昏睡に引っ張り込む。今眠っては危険である! 死に誘惑される眠りであると、心の中では思いながらいつか眠りに捕えられた。
……幾時間私は眠ったろう……
何者か私の全身を摩擦している者がある。嫋かではあるが粗い手で私の全身を擦っている。その快い触覚が疲労と苦痛とで麻痺している私の肉体を労わってくれる。私の意識は次第次第に恢復するように思われた。どうかして一目眼を開こう、眼を開いて私を労わってくれる親切な人を見ようとしても重い眼瞼は益※(二の字点、1-2-22)重くどうすることも出来なかった。それでも私は努力した。そしてようやく薄目を開けてあたりの様子を見ようとした。するとその時私の体を撫で廻していた手が止まった。いくらあたりを見廻してもそれらしい人の姿もない。ただここに一つ不思議なことには日光から私を防ぐため棕櫚で拵えた大きな笠が私の体を蔽うている。そして砂地に足跡がある。跣足の人間の足跡である。その足跡は海岸の背後の大森林まで続いている。岸辺を見ると繋ぎ止められたボートが水に浮かんでいて舟の中には元通り短銃や万年筆が置いてある。