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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

すると猩々が走って来て二人の仲を遮った。鈴のような眼で私を睨み紅玉を背後へ庇おうとする。

「どなた!」

と紅玉は、聞くも慕わしい昔通りの声で訊いた。

「どなたって俺に訊くのかい。張教仁だ! 張教仁だ!」

しかし紅玉は感動もせずに、私の顔を見守ったが、

「張教仁さんて! どなたでしょうね? ……そうそうやっと思い出しました。そういうお方がありましたわ、ずっとずっと昔にね……羅布の沙漠で逢いましたっけ、芍薬の花の咲く頃まであなたと一緒におりましたわ……そして桐の花の咲く頃にあなたの所から逃げましたわ。けれどとうとう発見って好きな好きな阿片窟からあなたの所へ連れ帰られてどんなに悲しく思ったでしょう……それからまたも逃げました。そうよ、あなたの所からよ……私には恋人がありますのよ。可愛い可愛い恋人がね! さあ銀毛や飛んでごらん! 私の恋人はお前なのよ! さあ銀毛や飛んでごらん!」

すると彼女の命ずるままに魔性の獣の猩々は空に向かって幾回となくヒラリヒラリと飛ぶのであった。

空には満月、地には怪獣、女神のような恋人が白衣を纒って立っている……所は蕃地で人食い人種のダイヤル族の部落である……