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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

「おっしゃる通り奥様はあの米国の大統領のハージング夫人とそっくりで、社交嫌いだとか申しますことで――けれどたった一度だけ招待会には出られました筈で」

「そうそうたった一度だけ――主人が印度から当地へ参り市長の職に着きました時、きわめて少数の知人でしたが、お招きしたことがございました。きっとあの時でございましょう?」

「さよう、あの時でございます。あの時私は舞踏室で、奥様をお見かけいたしました」

「それは少し変じゃございませんか――あの時およびした人達の中に、あなたのお名前はなかった筈で」

「レザールという名はございませんでした。しかしマドリッド日刊新聞の社長の名前はありました筈で」

夫人はしばらく考えてから、

「ポンピアド様という名前の六十過ぎた立派な方?」

「獅子のような頬髯を生やした人で」

「たしかにお招き致しました」

「それが私でございます」

「まあ」

と夫人は呆れ返り、

「でも、お見かけ申しましたところ、あなたはやっと三十ぐらい、それだのに一方ポンピアド様は……」

「ですから奥様尚一層化け易いのでございますよ。三十男のこの私がやっぱり他の三十男に化けるということは困難ですが、六十の老人に化けることはいと易いことでございます……もしもご不審におぼしめすなら、五分間ご猶予を頂いて、化け直してお目にかけましょうか」