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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

夜な夜な無数に群をなして草原狼が現われたが、火光に恐れて近寄らない。一発銃を撃ちはなすと慌てて姿を隠すのであった。

河の流れも幾筋かあった。しかしその水は飲めなかった。やっぱり塩を含んでいる。これらの河や沼や池は、全く不思議な化物で絶えずその位置が変るのであった。動く湖、移動る沼、姿を消してしまう河や池――全くこの辺のすべてのものは神秘と奇怪とに充ちていた。ある夜突然空の上から微妙な音楽が聞こえて来た。多数の男女の笑う声も。しかしもちろん姿は見えなかった。音楽も風のように消滅した。そうかと思うとまたある晩は氷塊と駱駝とを盗まれた。氷塊も駱駝も私達にとっては命と同じに大事なものだ。みんなはすっかり恐怖した。そうして厳しく警戒した。またある晩は木片の面へ不思議な文字を書きつけたものが天幕の中へ投げ込まれた。博言博士はそれを見ると顔色を変えて説明した。

「これがすなわち回鶻語じゃ。誰がいったい書いたんだろう。まだ墨痕は新らしいが」それからその語を翻訳した。

「――沙漠の霊を穢すなかれ。汝らの最も尊敬する貢物を捧げて立ち去らざれば、沙漠の霊汝らを埋ずむべし――」