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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

十二

紅玉を失った張教仁の、その後の生活は悲惨であった。燕楽ホテルの自分の室で、じっと悲嘆に暮れるのでなければ、北京の市街を夜昼となく、紅玉を探して彷徨うのであった。紅玉の行衛をさがすためには、彼はもちろん警務庁へもすぐに保護願いを出したのではあったが、警務庁では相手にしない。相手にしないばかりでなく、こんな事をさえ云うのであった。

「事件の性質が性質ですから、屍骸を見つけるのならともかくも、生きている女を見つけようとしても、それは不可能のことですよ。この警務庁の庁内にもそういう事件がありまして、班長が命を失いました」

こんなような訳で、警務庁では、事件を冷淡に扱かって、行衛をさがそうともしなかった。

張教仁の身にとっては、紅玉は仕事の相棒でもあり、二人とない大事な恋人でもあった。その紅玉を失ったということは、精神的にも物質的にも、大きな打撃と云わなければならない。そしてもちろん彼にとっては、物質的の打撃よりも、精神的の打撃の方が遙かに遙かに大きかった。もしも紅玉が永久に、彼の手に戻らないとしたならば、彼の性格はそのことのために、一変するに相違ない。