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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

「忽然として現われて来て、私の心を捉えた女は、また忽然と消えてしまった。しかし彼女は消えたにしても、彼女が残した胸の傷は容易のことでは消えはしない。それにしても本当に紅玉という女は、何んという不思議な女であろう。そういう女に逢ったということは、なんという私の不運であろう」

こう思うにつけても、張教仁は、どうしてももう一度紅玉を手に入れたいと焦るのであった。彼はそれから尚頻繁く、北京の内外をさがし廻った。

こうしていつか月も経ち夾竹桃や千日紅が真っ赤に咲くような季節となり、酒楼で唄う歌妓の声がかえって眠気を誘うような真夏の気候となってしまった。

張教仁はある夜のこと、何物にか引かれるような心持ちで、かつて愛人を見失なった金雀子街の方角へ、足を早めて歩いて行った。わずか一月の相違ではあるが、薄紫の桐の花も、焔のような柘榴の花も、おおかた散って庭園には、芙蓉の花が月に向かって、薄白くほのかに咲いている。

「花こそ変ったれ樹木も月も、あの時とちっとも変っていない。それだのに私の心持ちは、何んとまあ変ったことだろう」

張教仁は支那流に、このように感慨に沈みながら、トボトボと道を歩いて行った。