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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

れた生物の、あらゆる感覚の蓋を開いて、新奇な空気を吸収する、その眠たいまでに精神が表皮化して仕舞う忘我の心持ちに自分を托した。一つにはこの庭と茶室の一劃は、蔵住いと奥倉庫の間の架け渡しを、温室仕立てにしてあるもので、水気の多い温気が、身体を擡げるように籠って来るからでもあろう。

蘭科の花の匂いが、閉て切ってあるここまで匂って来る。

「あなたさまは、今度のお仕事のプランをお立てになる前から、河はお好きでいらっしゃいましたの」

私はざっと考えて、「まずね」と答えた。

「それじゃ、今度、わたくしご案内いたしましょうか。東京の川なら少しは存じています」

そう云って、娘は河のことを語った。ここから近くにあって、外濠から隅田川に通ずるものには、日本橋川、京橋川、汐留川の三筋があり、日本橋川と京橋川を横に繋いでいるものに楓川、亀島川、箱崎川があることから、京橋川と汐留川を繋いでいるものに、また、三十間堀川と築地川があることをすらすら語った。

私も、全然、知らないこともなかったが、こういう堀割にそう一々河名のついていることは、それ等の堀割を新しく見更めるような気がした。