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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

「どうぞ、もっと教えて頂戴」と私は云った。

すると、娘ははじめて自分の知識が真味に私を悦ばせるらしいのに、張合いを感じたらしく、口を継いで語った。

「隅田川から芝浜へかけて昔から流れ込んでいた川は、こちらの西側ばかりを上流から申しますと、忍川、神田川、それから古川、これ三本だけでございました」

私は両国橋際で隅田川に入り、その小河口にあの瀟洒とした柳橋の架っている神田川も知っていれば、あの渋谷から広尾を通って新開町の家並と欅の茂みを流れに映し乍ら、芝浜で海に入る古川も知っている。だが、忍川というのは知らなかった。

「あの上野の三枚橋の傍に、忍川という料理屋がありましたが、あの近所にそんな名の川がありましたの、気がつきませんでしたわ」

「川にも運命があると見えまして、あの忍川なぞは可哀想な川でございます。あなたさまは、王子の滝ノ川をご存じでいらっしゃいましょう」

むかし石神井川といったその川は、今のように荒川平野へ流れて、荒川へ落ちずに、飛鳥山、道灌山、上野台の丘陵の西側を通って、海の入江に入った。その時には茫洋とした大河であった。やがて石神井川が飛鳥山と王子台との間に活路を拓いて落ちるようになって、不忍池の上は藍染川の細い流れとなり、不忍池の下は暗渠にされてしまって、永遠に河身を人の目に触れることは出来なくなっ