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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

「どう、いいじゃないの……」と、まるで呉服屋の店先で品選りするように、何もかも忘れて眺めていた。

娘は、私から少し離れて停っていた。

「今日、あなたに見て頂こうと思いまして、昨夜晩くまでかかって展げて置きましたのですけど……あたくし、こんなもの、何度、破り捨てて、新らしく身の固めを仕直そうと思ったか判りません。でも、やっぱり出来ないで……時々ここへ来ては未練がましく出したり取り散らしたりして見るのですけれど……」

明るみに出て、陽の光を真正面に受けると、今まで薄暗いところで見た娘の貌のくぼみやゆがみはすっかり均らされ、いつもの爛漫とした大柄の娘の眼が涙を拭いたあとだけに、尚更、冴え冴えとしてしおらしい。

「いつ頃、これを慥えなさって?」

「三年まえ……」

娘はしおしおと私に訴える眼つきをした。私は堪らなく娘がいじらしくなった。日はあかあかと照り出して、河の上は漸く船の往来も繁くなった。

「あんまりこんな所に引込んでいると、なお気が腐りますからね。きょうは、何処か外へ出て、気をさっぱりさせてから、本当にご相談しましょう」

河岸には二人並んで歩ける程、雪掻きの開いた道が通り、人の往来は稀だった。