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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

車を呼び止めて、娘をホテルの食堂に連れて行き、早い昼飯を食べさした。そのあと、ローンジでお茶を飲みながら

「面倒臭いじゃありませんか、そんなこといつまでもぐずぐず云ってたって……そんなこと云って、その人が陸へ寄りつかないなら、こっちから私があなたを連れて、その人の寄る船つきへ尋ねて行き、のっぴきさせず、お話をつけようじゃありませんか」

私も東京生れで、いざとなると、無茶なところが出るのだが、それよりもこの得態の知れない男女関係の間に纏縛され、退くに退かれず、切放れも出来ず、もう少し自棄気味になっていた。

すべてが噎るようである。また漲るようである。ここで蒼穹は高い空間ではなく、色彩と密度と重量をもって、すぐ皮膚に圧触して来る濃い液体である。叢林は大地を肉体として、そこから迸出する鮮血である。くれない極まって緑礬の輝きを閃かしている。物の表は永劫の真昼に白み亘り、物陰は常闇世界の烏羽玉いろを鏤めている。土は陽炎を立たさぬまでに熟燃している。空気は焙り、光線は刺す――――――

私と娘は、いま新嘉坡のラフルス・ホテルの食堂で昼食を摂り、すぐ床続きのヴェランダの籐椅子から眺め渡すのであった。