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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

芝生の花壇で尾籠なほど生の色の赤い花、黄の花、紺の花、赭の花が花弁を犬の口のように開いて、戯れ、噛み合っている。

「どう」私は娘に訊いた。

「二調子か三調子、気持ちの調子を引上げないと、とてもこの強い感じは受け切れないわ」と娘は眼を眩しそうに云った。娘は旅に出てから、全く私に倚りかかるようになっただけ、親しくぞんざいな口が利けるようになった。

私には、あまりに現実に乗出し過ぎた物のすべてが、却って感覚の度に引っかからないように、これ等の風物が何となく単調に感じられて眠気を誘われた。

「半音の入っていない自然というものは、眠いものね」

私は娘が頸を傾けて、も一度訊き返そうとするのを、別に了解して欲しいほどの事柄でもないので、他の事を云った。

「兎に角、熱いわね。こういう所で、ランデヴウする人も、さぞ骨が折れるでしょうが、そのランデヴウを世話する人は、いよいよ並大抵じゃないわね」

私は揶揄いながら、横を向き、ハンカチを額へ持って行って、滲み出す汗を抑えた。

娘は真身に嬉しさを感ずるらしく、ちょっと籐椅子を私の方へいざり寄せ、肘で軽く私の脇の下を衝いた。

私は娘の身の上を引受けてから、若い店員と話をつける手段を進めた。