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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

私たちはただ南洋らしい景色と人間とを待ち望んだ。しかし、道で道路工事をしている人々や、日除け付きの牛車を曳いている人々が、どこの種族とも見受けられない、黒光りや赫黒い顔をして眼を炯々と光らせながら、半裸体で働いている。躯幹は大きいが、みな痩せて背中まで肋骨が透けて見える。あわれに物凄い。またそれ等の人々の背を乗客席に並べて乗せた電車が市中を通ると、地獄車のように、異様に見えた。その電車は床の上に何本かの柱があって風通しの為めに周りの囲い板はなく僅に天蓋のような屋根を冠っているだけである。癒し難い寂しい気持ちが、私の心を占める。

「ここは新嘉坡の銀座、ハイ・ストリートといいます」

と社長にいわれて、二つ三つの店先に寄り衣裳の流行の様子を見たり、月光石の粒を手に掬って、水のようにさらさら零しながらも、それは単なる女の習性で、心は外に漠然としたことを考えていた。

「この娘を首尾好く、その男に娶わすことが出来たとしても、それで幸福であるといえるだろうか。」

けれども、そう思う一方にまた、私は無意識のうちに若者と娘が暫く茲に新住宅でも持つであろうことを予想してしきりに社長に頼むのだった。