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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
「イギリス海軍用のタンク」
水が見える。綺麗な可愛らしい市が見える。ジョホール海峡の陸橋を渡って、見えていた市の中を通って、なおしばらく水辺に沿って行った処で若い紳士は車を停め、土地の名所である回教の礼拝堂を見せた。がらんとして何もない石畳と絨氈の奥まった薄闇へ、高い窓から射し入る陽の光がステンドグラスの加減で、虹ともつかず、花明りともつかない表象の世界を幻出させている。それを眺めていると、心が虚になって、肉体が幻の彩りのままに染め上げられて仕舞いそうな危険をほとほと感ずる。私たちは新嘉坡の市中で、芭蕉の葉で入口を飾り、その上へ極端な性的の表象を翳しているヒンズー教の寺院を見た。それは精力的に手の込んだ建築であった。
虚空を頭とし、大地を五体とし、山や水は糞尿であり、風は呼吸であり、火はその体温であり、一切の生物無生物は彼の生むところと説く、シバ神崇拝に類して精力を愛するこの原始の宗教が、コーランを左手に剣を右手に、そして、ときどき七彩の幻に静慮する回教に、なぜ南方民族の寵をば奪われたのであろうか。そしてその回教がなぜまた物質文化に圧えられたのであろうか。