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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

急に娘に対する憎みが起った。だが、また娘の顔を覗くと、あんまり鮮かで屈托がなさ過ぎる。私の反感も直ぐに消えてしまう。

「この無邪気さには、とても敵わない」

私は気力も脱けて、今度はしきりに朗吟の陶酔に耽っている、社長の肩を揺って、正気に還らせ、

「これは真面目なご相談ですが……」と、木下の新嘉坡に於ける女出入や、その他の素行に就いて、私はまるで私立探偵のように訊き質すのであった。

深林の夜は明け放れ、銀色の朝の肌が鏡に吐きかけた息の曇りを除くように、徐々に地霧の中から光り出して来た。

一本のマングローブの下で、果ものを主食の朝餐が進行した。レモンの汁をかけたパパイヤの果肉は、乳の香がやや酸※した孩児の頬に触れるような、かさと匂いがあった。指ほどの長さでまるまると肥っている、野生のバナナは皮を剥ぐと、見る見る象牙色の肌から涙のような露を垂らした。柿の型をした紫の殻を裂くと、綿の花のような房が甘酸く唇に触れるマンゴスチンも珍らしかった。

「ドリアンがあると、こっちへいらっした紀念に食べた果ものになるのですがね。生憎と今は季節の間になっているので……。僕等には妙な匂いで、それほどとも思いませんが、土人たちは所謂、女房を質に置いても喰うという、何か蠱惑的なものがあるんですね」