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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

若い経営主は云った。

「南洋の果ものには、ドリアンばかりでなく、何か果もの以上に蠱惑的なものがあるらしいです。ご婦人方の前で、そう云っちゃ何ですが、僕等だとて独身でこんなとこへ来て、いろいろの煩悩も起ります。けれどもそういうものの起ったとき、無暗にこれ等の豊饒な果ものにかぶりつくのです。暴戻にかぶりつくのです。すると、いつの間にか慰められています。だから手元に果物は絶やさないのです」

若い経営主は紫色の花だけ眼のように涼しく開けて、葉はまだ閉じて眠っているポインシャナの叢を靴の底でいじらしそうに※りながら、こう云った。

娘は、今朝も事務員に混っていろいろ手伝っていたが、何となくそわそわしていた。そして、話にばつを合せるように、私には嫌味に思える程、きらきらした作り笑いの声を挙げた。しかし、若い経営主が、こういうにつれ、他の若い男たちも悵然とした様子をみて、娘は心から同情する気持ちを顔に現した。

「僕の慰めは酒と子供だな」と社長は云った。

彼は今朝もビールを飲んでいた。

「君にもまだ慰めなくちゃならない煩悩があるのかね」と若い経営主は云った。「そんなにチッテ族の酋長のような南洋色になっても」