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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
硝子戸を越して、荷船が一ぱい入って向うの岸は見えない。その歩び板の上に、さき程の娘は、もう水揚げ帳を持って、万年筆の先で荷夫たちを指揮している姿が眺められた。
私は毎日河沿いの部屋へ通った。叔母と一緒に昼飯を済ませ、ざっと家の中を片付けて、女中に留守中の用事を云いつけてから出かけた。化粧や着物はたいして手数がかからなかった。見られる同性というならば、あの娘ぐらいなもので、その娘は他人に対するそういう詮索には全然注意力を持たないらしかった。それは私を気易くさせた。
この宿の堆朱の机の前に座って、片手を小長火鉢の紫檀の縁に翳しながら、晩秋から冬に入りかける河面を丸窓から眺めて、私は大かた半日同じ姿勢で為すことなく暮した。
河は私の思ったほど、静かなものではなかった。始終船が往き来した。殊に夕暮前は泊りの場所へ急ぐ船で河は行き詰った。片手に水竿を控え、彼方此方に佇んで当惑する船夫の姿は、河面に蓋をした広い一面板に撒き散した箱庭の人形のように見えた。船夫たちは口々に何やら判らない言葉で怒鳴った。舷で米を炊いでいる女も、首を挙げて怒鳴った。水上警察の巡邏船が来て整理をつけた。