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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

もはや、完全に私は私の役目を果した。二人の間に私の差挟まる余地も必要もないのをはっきり自覚した。すると私は早く日本の叔母の元へ帰り、また、物語を書き継ぐ忍従の生活に親しみ度い心のコースが自然私に向いて来た。

私たちからは内地の話や、男からは南洋の諸国の話が、単なる座談として交わされた。社長は別室へ酔後の昼寝をしに行った。

この土地常例の驟雨があって後、夕方間近くなって、男は私だけに向って、

「ちょっとその辺を散歩しましょう。お話もありますから」と云った。

私は娘の顔を見た。娘は「どうぞ」と会釈した。そこで私は男に連立って出た。雨後すぐに真白に冴えて、夕陽に瑩光を放っている椰子林の砂浜に出た。

スコールは右手の西南に去って、市街の出岬の彼方の海に、まだいくらか暗沫の影を残している。男はその方を指して「こっちはスマトラ」それからその反対の東南方を指して「こっちはボルネオ」、それから真正面の青磁色の水平線に、若い生姜の根ほどの雲の峯を、夕の名残りに再び拡げている方を指して、「ずーっと、この奥に爪哇があります。みな僕の船の行くところです」

彼は一本の椰子の樹の梢を見上げて、その雫の落ちない根元の砂上に竹笠を裏返しに置き、更にハンケチをその上に敷き、