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かわはぜ

河沙魚

林 芙美子

「人間」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,653 字 · 24 页

青空文庫

「おい、隆吉が戻って来たぞ……」

ぽつんと与平が云った。

千穂子ははっとして眼をみはった。

「手紙が来たの?」

「うん、佐世保から電報が来た」

与平はもう一日しのぎな生活だったのだ。千穂子は気が抜けたような恰好で、縁側に腰をかけた。表口へ出る往来添いの広場に、石材が山のように積んである。千葉県北葛飾郡八木郷村村有石材置場と云う大きい新しい木札が立てられた。千穂子は腰かけたなり、その木札の文字を何度も読みかえしていた。その墨の文字が、虫のように大きくなったり縮んだりして来る。長閑によしきりが鳴いている。

「おじいちゃん。隆さん、いつ戻るの?」

「明日あたり着くンだろう……」

色の黒い商人風な男が、玉子はないかと聞きに来た。与平は顔なじみと見えて、部屋から玉子の籠を出して来ると、玉子を陽に透かしては三十箇ばかり相手の籠に入れてやった。男は釣銭はいらないと云って、百円札を置いて行った。その男の後姿を見て、千穂子は何と云う事もなくぞっとするようなものを感じた。死神とはあんなものではないかと思えた。片耳が花の芯のように小さく縮まってしまって、耳たぶがなかったのだ。