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かじか
河鹿
岡本 綺堂
「婦人公論」1921(大正10)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,671 字 · 12 页
奥さんの顔色の悪いのも、どの人も陰気に黙っているのも、これですっかり判ったが、やっぱり判らないのは夜なかの悲しい声だ。そこで、僕はその人形をここへ持って来ているのかと女中にきくと、奥さんは生きているお嬢さんを一緒に連れてくるこころで、その人形を箱に入れて持って来て座敷の床の間にちゃんと飾ってあるという。これを聞いて、僕はまたぞっとした。
それから女中にむかって、ゆうべの夜なかに何か聞かなかったかと探索りを入れると、女中は不安らしい眼つきをして、自分は次の間の四畳半に寝ていたから何にも知らなかったが、何かおかしなことでもあったかという。僕は思い切ってかのパパアやママアの一件を囁くと、女中は急に声をふるわせて、それはほんとうですかと念を押した上で、実は東京にいる時にも奥さんが夜なかにそういう声を聞いたとおっしゃいましたが、それは神経のせいだろうといって皆さんも信用なさらなかったのですが、それではやっぱり真実なのでしょうかという。なんにも知らない僕が偶然に聞いたのだから、おそらく神経ばかりではあるまいというと、女中はいよいよ青くなって、あの人形に死んだお嬢さんの魂が残っているのでしょうかという。