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ぬまのほとり

沼のほとり

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,788 字 · 16 页

青空文庫

佐伯八重子は、戦争中、息子の梧郎が動員されましてから、その兵営に、二回ほど、面会に行きました。

二回目の時は、面会許可の通知が、さし迫って前日に届きましたため、充分の用意もなく、一人であわてて駆けつけました。そして、長く待たされた後、ゆっくり面会が出来ました。

帰りは夕方になりました。兵営から鉄道の駅まで、一里ばかり、歩きなれない足を運びました。畑中の街道で、トラックが通ると濛々たる埃をまきあげました。西空は薄曇り、陽光が淡くなってゆきました。面会帰りの人々の姿が、ちらりほらり見えますのが、時にとっての心頼りでした。

小さな店家を交えた町筋をぬけると、突き当りが停車場です。その狭い構内に、大勢の人がせきとめられていました。

――東京方面への切符は売りきれてしまった。

そういう声が、人込みの中に立ち迷っていました。

切符売場の窓口に顔をさしつけて、しきりに何か談じこんでいた人も、諦めたようにそこを立ち去りました。見知らぬ人同士、話しかけて智恵を借り合うのもありました。――

わりに大きな次の駅まで、二里あまり歩いて行けば、東京方面への切符があるかも知れませんでしたし、あるいは、そこで交叉してる他の鉄道線から迂回して、東京方面へ行けるかも知れませんでした。