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ほうえつクラブ
法悦クラブ
野村 胡堂
「小説の泉」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,176 字 · 28 页
「村一さん、一緒に」
佐々村村一の身体を抱き上げるように、衆人環視の中に、犇とすがり付くのでした。
「阿修羅」
「――――」
「歌って」
佐々村村一の唇は僅かに動きました。
「では、いつもの、シューベルトを」
汝こそは、わが心の安らいなれ――
それは美しくも淋しい声でした、が細く優しく、死に行く人の声とも覚えぬ潤いと光に充ちて、――会場に化石した三十の会員は、あまりの事に何をするのも忘れて、この「白鳥の歌」に聴き入る外は無かったのです。
茶谷金弥夫人の阿夜子と、佐々村村一は死んでしまいました。が、多摩川べりの、「法悦倶楽部」はその夜のうちに火を失して焼け、茶谷金弥は四人の妾と、巨大な借財を残して、何処かへ姿を隠してしまったのです。
死に行く阿夜子が、息も絶々に歌った、「汝こそは」の歌は、三十人の会員達に、忘れることの出来ない、美しくも凄まじい記憶として遺ったことは言う迄もありません。これこそまことに仏説の「法悦」に悟入した讃歌とでも言うべきでしょうか。