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りゅうせんスパイ

流線間諜

海野 十三

「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页

青空文庫

そこにじっと立っていて、なぜ、あの怪紳士の行方が分るというのだ」

大江山捜査課長は真剣に色をなして、帆村に詰めよった。さあ一大事……。

「冗談じゃない、本当なのですよ、大江山さん」と、帆村は彼の癖で長くもない頤の先を指で摘まみながらいった。「これは雁金検事さんにも聞いていただきたいのですけれど、実は今群衆の中に、私の助手である須永が交って立っていたのです。そこへ怪紳士があの早業をやったものですから、すぐさま須永に暗号通信を送って怪紳士を追跡しろと命じたのです。彼はすぐ承知をして、列を離れました。間もなく知らせてくるから、一切が分りますよ」

「なんだ、そうだったのか」と雁金検事は横から笑いかけながら、「しかし暗号通信というのは、どんなものかね」

「そいつは私たちの間だけに通用する指先の運動ですよ。こんな風に、頤の下で動かすんです」

と帆村は五本の指を器用に動かして、

「いま動かしたのが、(屍体を早く解剖にした方がよろしい)という文句を暗号に綴ったんです」

「ふふん。中々口の減らない男だな」と検事は苦が笑いをして、「大江山君、その婦人の屍体を早く法医学教室へ送って解剖に附してくれ給え。