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りゅうせんスパイ

流線間諜

海野 十三

「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页

青空文庫

「ちぇッ――逃がしたかッ」

流石は首領であった。咄嗟の場合に、その場を脱れたものらしかった。

「この上は『赤毛のゴリラ』を頼むより外はない」

彼はスルスルと横に匍って、奥の壁際に倒れている第二の犠牲者のところへ近づいた。

「オイッ、しっかりしろ!」

「赤毛のゴリラ」の上衣を開くと、彼の胸には先刻怪人からソッと渡された簡易防弾胸当が当っていた。しかし弾丸は運わるく胸当の端を掠めて、頤の骨にぶつかったらしく、頸のあたりを鮮血が赤く染めていた。その衝動が激しかったのか、彼は気絶していた。しかし心臓の鼓動は指先にハッキリ感ぜられた。

「このままでは、息を吹きかえすと同時に昏睡してしまうぞ。危い危い」

そういって怪人は黒衣の下からマスクのようなものを出し、ゴリラの顔面に被せてやった。そしてそれが済むと、ドンドンと背中を打って、

「おい、目を覚せ、目を覚すんだ!」

と叫んだ。

激しい刺戟に「赤毛のゴリラ」はやっと気がついたか、ウーンと呻り始めた。

「オイ『赤毛』君。――しっかりするんだ。愚図愚図していると、俺達は死んでしまうぞ」

怪人は気が気ではなかった。隠し持ちたる毒瓦斯を放ったのはよいが、首領を逸してしまっては危険この上もない。