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るてん
流転
山下 利三郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,715 字 · 12 页
事実として考えることのできないような」
「いくら小説をお描きになる貴方でもまだお若いから、御想像がつかないかも知れませんが、中年者の恋はそれだけ棄身で真剣なのです……いや、図に乗って四十を越えた私が気のさすお話をして恐縮です。もう夜も更けたようですからこれでお暇いたします。初めてお目に懸った貴方に、とんだ御散財をかけて済みません、ではこのお名刺も戴いてまいります」
叮寧に頭を下げた放浪者は静かに上衣の釦をかけて立上った。
その抜け上った額や、痩せて弛みのできた頬が、いかにも人の好さそうなそして平和らしい相貌に見えて、小村は何となしにこの儘で別れてしまうのが寂しかった。
「今からどこへいらっしゃるのです、まさか東京へ帰るのじゃないでしょう」
「はい、実は梅田停車場の裏の方に、少々知辺がありますから、行って泊めて貰おうかと思っています」
「あのウ、悪く思わないで下さいよ、万一その家が起きてくれなかったら、宿屋へ泊る足しにでもして下さい」
小村は蟇口から一枚の紙幣をつまみ出して相手に握らせた。放浪者はひどく辞退していたが、熱心な小村の辞に動かされてしまった。
「御好意に甘えさせて貰います。