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うかぶひこうとう

浮かぶ飛行島

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 124,009 字 · 249 页

青空文庫

午前十時、練習艦隊はいよいよ飛行島の繋留をといて出港ときまった。その用意のため、練習艦明石は、早朝から忙しかった。

当直将校は長谷部大尉だった。

「川上のやつはどうしたろう」

大尉は、前艦橋で飛行島の方を睨みつけながら、胸の中をぐっとついてくる憂鬱をおさえつけた。

一人の下士官が艦橋に上って来て、とことこと大尉の方に歩みよった。

長谷部大尉は、それと見るより、

「おう、御苦労。どうだった」

「はいっ。やはり駄目でありました。川上機関大尉は、今朝にいたるもまだ帰艦しておられません」

「うむ、そうか」

あとは黙って、大尉は飛行島の方へまた顔を向けなおした。

下士官は敬礼をすると、帰っていった。

(まだ帰って来ない)

大尉は口のなかでつぶやいた。

出港は、間近にせまっている。幼いときから、一しょに学び一しょに遊んできた川上を、この南シナ海の真中に残してゆくのは、実につらいことだった。

それも捜索したあげく、見つからなかったというのなら諦めもつくが、飛行島を眼の前にしながら、上陸厳禁という艦長の命令は、あまりにもつらいことだった。だが、軍規は、あくまで厳粛でなければならない。