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うみのかなた

海のかなた

小川 未明

「週刊朝日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页

青空文庫

まさしく、三年前に失くしたおじいさんのくれたバイオリンでありました。

黄昏方の空に、つばめはないています。そのつばめの鳴く声は故郷の海岸の岩鼻でなくつばめの声を思わせました。

「ああ、つばめが、私に、教えてくれたのだ。」と、うす明かりの下で、バイオリンを抱いて少年は、つばめの飛んでゆく北の空をながめていました。

松蔵は、唄うたいとなりました。かつて、おじいさんがそうであったように、脊中に、小さな薬箱を負って、バイオリンを弾きながら、知らぬ他国を旅して歩いたのです。

入り日は、赤く、海のかなたに沈みました。彼は、その入り日を見るにつけて、おじいさんのことを思わずにいられませんでした。旅するうちに、幾たびか月日はたちました。松蔵は、青年となったのです。けれど、彼は、どうかして一度、海を渡って、あちらにある国にいってみたいという希望を捨てませんでした。

ある年の初夏のころ、彼は、ついに海を渡って、あちらにあった大島に上陸しました。

そこには、いまいろいろの花が、盛りと咲いていました。

彼はその島の町や、村でやはり薬の箱を負って、バイオリンを鳴らして、毎日のように歩いたのです。