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うみのかなた

海のかなた

小川 未明

「週刊朝日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页

青空文庫

少年は、両親や、姉妹に別れを告げました。

「私は、旅をして、りっぱな音楽家になって帰ります。」

そういって、彼は、故郷を立ち出たのです。

それから、彼は、あちらの町、こちらの町とさまよって、バイオリンを探して歩きました。

また、バイオリンを弾く家の前に立っては、じっとその音に耳を傾けました。弾いている人にどれほどの技倆があろう。弾いているバイオリンは、なつかしい自分のものであったバイオリンではなかろうか? と、かたときも自分の志と、バイオリンのことを忘れませんでした。

少年は、おじいさんのしたように、薬売りになったり、筆や、墨を売る行商人になったりして、旅をつづけました。

ただ一つ、そのおじいさんの持っていたバイオリンにめぐりあうのに、頼みとするのは、小さな星のような真珠が、握り手のところにはいっていたことです。少年は、ふるさとに近い町の道具屋は一軒のこらずにきいて歩きました。

「真珠の小さな珠が、握り手にはいっているバイオリンは出ませんでしたか?」

どこかこの近くの古道具屋に、そのバイオリンは売られたと思ったからです。そして、まだ、その店のすみに残っていやしないかというかすかな望みがあったからでありました。