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かいりゅう

海流

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页

青空文庫

その第一声がこの近頃の傑作である上海へ着きますとねえ、なのであった。

お八つの時間に、日曜日らしくお汁粉が出された。食堂を出て、今日は店番をしている人のいない購買組合の店のところへ来かかった時、

「ちょっと! ちょっとってば!」

はる子がうしろから小走りにかけて来て、宏子の肩をつかまえた。

「知ってる? 三田先生やめさせられるらしいのよ」

「ほんと?」

折からその食堂からの大廊下をぞろぞろと通りがかっていた学生たちが、

「三田先生がどうしたって?」

「なんなの」

「どこできいたの?」

ぐるりと集って来てはる子のまわりを取巻いた。

三

三田敦子が校長の私宅へ呼ばれて辞職を勧告されたということ、その理由として、アメリカから帰ったばかりである三田が教室で学生にベン・ビー・リンゼイの友愛結婚の話をしたことが理事会の意見としてあげられたという噂は、初めはまさかという気分で受取られた。

然し、月曜日の朝、それとなく待ちかねていた三田党の学生の目に、三田敦子の大学生っぽい白いカラアの姿が見当らなかったことは、成行きに関心を抱いていた学生達の感情に真面目な憂慮を生んだ。