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かいりゅう
海流
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页
――いやだわあ」
としきりに水をのんでいる。間違えて果物の種をのんだのである。
社交室では、祇園小唄のようなレコードが鳴っていて、それに合わせて女同士六組ばかりがダンスをしている。
一歩外へ出れば、晩秋の畑と雑木林とが地平線まで広闊に拡っていて、あたりには町並もなかったから、日曜日の午後の女学生たちのこういうとりとめない色彩の溢れたざわめきは、周囲と切りはなされて、無形の柵の中に囲われている一団のような感じを与えるのであった。
奥庭の、ヒマラヤ杉のかげにある日だまりのベンチのところで演劇部のものがクリスマスにやる英語芝居の科白を諳誦していた。
「おお! マリア! 見たか? お前は確に見たか?」
一つの声が英語でそう問いつめよった。すると、その答えをするべきマリアが突然日本語になって、声を落しながらも十分聞きとれるように特別に抑揚をつけて、
「ええ見ましてすとも」
と答えた。
「上海へ着きますとねえ、マア支那人ばっかりいたんでございますよ」
シーッ! 圧えても圧えても鎮まることの出来ない生気溢れる笑いが続いた。カキ、即ち柿内ナミという生徒監が先頃上海視察に行って、帰った時講堂に学生を集めて報告をした。