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かいひんそうのさつじん
海浜荘の殺人
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页
時計が六時を打った時、旅行鞄を持って執事の苅田平吉が帰って来た。――彼は下男に事件を聞いたらしく、すっかり取乱した様子で志津子の側へあたふたと走寄りながら、
「お嬢さま、――お嬢さま」
しどろもどろだった。志津子も涙ぐみながら咽ぶように、
「苅田、どうしておまえ早く帰って来て呉れなかったの。おまえさえ居て呉れたら、こんな事には成らなかったかも知れないのに」
「申訳ございません。兄の病気がはかばかしくなかったものですから、……して、犯人はもう捉ったのですか」
「君はここの執事だね?」
署長が近寄ってきて訊いた。
「はい、左様でございます」
「岡山へ行っていたそうだが、いま帰って来たのか?」
「はい、午前五時三十分藤沢駅着の列車で帰って参りました」
「間違いないだろうな?」
「決して嘘は申し上げません」
苅田平吉がはっきりと答えた時、――客間の方から扉を開けて、高野千之が悠々とした足取で入って来た。――そして、署長はじめ一同が唖然としている中を、部屋の中央まで進んで来ると、両手をひろげながら云った。
「皆さんは僕を捜していらしったのでしょう。僕も子爵を殺害した嫌疑者の一人だということで急いでやって来ました。