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かいひんそうのさつじん

海浜荘の殺人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

「子爵はこの三四日ひどく具合が好くて、足台は片付けさせた筈だね」

「ええそうだわ」

「妙だ、――僕がゆうべ来た時も、こいつは卓子の隅に片寄せてあった。――署長さん、此処にいる者は、みんな足台が片付けてあったのを知っています」

「一体それがどうしたのかね」

「お分りになりませんか」千之はにやりと笑って、

「犯人はですね、この足台が片付けてあった事を知らなかったんです。例えばですよ、執事の苅田君は一週間まえに岡山へ立った。その時はまだ子爵は足台を使って居られたのです。だから若し、例えば苅田君が犯人だとすればですね、子爵を殺してから、部屋の中に証拠になるような痕跡を残しはしなかったかと見廻した時、足台の位置が違っているのをみつけ、ふと日頃の習慣で元の位置へ直す――つまり、片付けてあったのを知らずにですね」

「ば、ばかな事を云うなッ」

苅田平吉が喚きたてた。

「怒ったね苅田君、――今のは例え話さ。つまり足台の位置を直した者があるとすれば、ここには君より他に誰もいないと云ったんだ」

「それでは私が犯人だと云うのか」

「僕はそいつを疑いたいんだ。――何故って、君はそこに鍵束を持っているね」