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かいひんそうのさつじん

海浜荘の殺人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

「志津子さん、大変な事があるんですよ」

と側へ坐った。

「今日まで内証にしていたんですが、実は四五日まえから脅迫状を寄来す奴がいるんです。初めは誰かの悪戯だと思ってたんですが」

「一万円出すか、でなければお祖父さまとあたしを殺すって云うんでしょう、――?」

「も、もう御存じなんですか?」

「たった今、荒木さんから聞いたわ」

「荒木が?」

井上一郎はさっと顔色を変えた。――ただ顔色を変えた許りでなく、拳で空を打つ真似をして呻くように、

「そうか、それで分った」と云いながら振返った。

「志津子さん、それで分りましたよ、荒木です。荒木の仕業に違いありません」

「何が荒木さんなの?」

「脅迫状の事を知っているのは僕と久良の二人です。二人だけで何とか善後策を講じようと相談していたので、荒木にも高野にも話してないのです。然も――ですね、然も僕たちの見るところでは、脅迫状の筆跡はたしかに荒木のものらしいんです」

「それがどうしたって云うの?」

「分りきってるじゃア有りませんか、奴は貴女と中村家の財産を狙っていたんですが、迚も駄目だと思ったので一万円脅迫しようとしているんです。――僕たちしか知らぬ事を奴が知っていた、それから筆跡、この二つが証拠です」