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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
荒木はともかく、わしどもにはただもうまぶしくてうかつにそばへもよってゆけぬようなありさまだったのであります。花子はさっぱりしたわけへだてをしないむすめでありまして、たれにもおなじようにからみついたりじょうだんをいったり、そればかりか手まめにシャツのほころびをぬってくれたり、髪をかきあげたりしてくれまする。鬼のような島のやつらも、たれもかれもみな見ちがえるように奇麗になって、たがいに顔をみあわせてはあっ気にとられるのでありました。らんぼうばかりいたして手のつけられぬいんだらなやつらも、花子のまえへでると小犬のようにおとなしく、花子がかくべつ喰べたいともいわぬのに、夜なべをかけて釣に出るわ、華魁鴨をうつわ、雪のしたから浜菜や藜をほってくる、ロッペンの卵をあつめる。どんなうつくしい大家のおじょうさまでもこの島で花子がされたほどもてはやされることはよもありますまい。こんなふうにして、その年もつまり、ちょうど大晦日の夜のことでありました。夕方から年とりの酒もりをはじめましたが、すえにはみんなへべれけになって地金をだし、四方八方から花子にすけべえなじょうだんをいいかけ、近藤などは花子の手をとって寝にいこうなどともうします。