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るいこうにかえれ
涙香に還れ
野村 胡堂
「巌窟王 上巻」愛翠書房、1948(昭和23)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,844 字 · 4 页
この度愛翠書房が涙香の著作約六十の長編の中から、最も今日の読者に享け容れられそうなのを選んで、昔の姿のままの文体と用語で、――小ざかしき後輩の手を加えることなしに――オリジナルの珠玉篇を提供しようという企ては、わが読書界のために、近頃珍らしい有意義な仕事である。
涙香は小説家であると共に、大新聞人であり、偉大なる社長であり、練達の紳士であり、民間の哲学者であり、そして曾ては内村鑑三、堺枯川、幸徳秋水をその羽翼の下に抱擁した自由人であったのである。
涙香の小説の大部分は外国の名作の翻案であったが、それは極めて自由にして奔放な翻案で、原作は時に単なる素材に過ぎず、書かれたものは涙香の創作と言っても差支の無かったことは、多くの涙香研究家の知るところである。従って涙香の作物に盛られたものは、面白い物語の底を流るる人間愛と、火の如き正義感で、これは世の通俗小説の、好色的な頽廃趣味とは、大に選を異にするところで、涙香を再び世に送らんとする、出版社の意図もまた此処にあることだろうと思う。
最初に世に送らるる「巌窟王」が大デュマの傑作「モンテ・クリスト伯」であることも機宜を得たものだろう。