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りょうみすうだい

涼味数題

寺田 寅彦

「週刊朝日」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,617 字 · 10 页

青空文庫

を食った。この熱いぜんざいが妙に涼しいものであった。店とはいっても葦簾囲いの中に縁台が四つ五つぐらい河原の砂利の上に並べてあるだけで、天井は星の降る夜空である。それが雨のあとなどだと、店内の片すみへ川が侵入して来ていて、清冽な鏡川の水がさざ波を立てて流れていた。電燈もアセチリンもない時代で、カンテラがせいぜいで石油ランプの照明しかなかったがガラスのナンキン玉をつらねた水色のすだれやあかい提燈などを掛けつらねた露店の店飾りはやはり涼しいものであった。近年東京会館の屋上庭園などで涼みながら銀座へんのネオンサインの照明を見おろしているときに、ふいとこの幼時の南磧の納涼場の記憶がよみがえって来て、そうしてあの熱い田舎ぜんざいの水っぽい甘さを思い出すと同時になき母のまだ若かった昔の日を思い浮かべることもある。この磧の涼味にはやはり母の慈愛が加味されていたようである。

高知も夕なぎの顕著なところで正常な天気の日には夜中にならなければ陸軟風が吹きださない。それに比べると東京の夏は涼風に恵まれている。ずっと昔のことであるが、日本各地の風の日変化の模様を統計的に調べてみたことがある。