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りょうみすうだい

涼味数題

寺田 寅彦

「週刊朝日」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,617 字 · 10 页

青空文庫

この結果によると、太平洋岸や瀬戸内海沿岸の多くの場所では、いわゆる陸軟風と季節的な主風とが相殺するために、夕なぎの時間が延長されるのであるが、東京では、特殊な地形的関係のおかげでこの相殺作用が成立しない。そのために、正常な天候でさえあれば、夕方の涼風を存分に発達させているということがわかったのであった。それはとにかく、こういう意味で、夕風の涼しさは東京名物の一つであろう。夕食後風呂を浴びて無帽の浴衣がけで神田上野あたりの大通りを吹き抜ける涼風に吹かれることを考えると、暑い汽車に乗って暑い夕なぎをわざわざ追いかけて海岸などへ出かける気になりかねるのである。

もっとも、東京でも蒸し暑い夜の続く年もある。二十余年の昔、小石川の仮り住まいの狭い庭へたらいを二つ出してその間に張り板の橋をかけ、その上に横臥して風の出るのを待った夜もあった。あまり暑いので耳たぶへ水をつけたり、ぬれ手ぬぐいで臑や、ふくらはぎや、足のうらを冷却したりする安直な納涼法の研究をしたこともあった。しかし近年は裏の藤棚の下の井戸水を頭へじゃぶじゃぶかけるだけで納涼の目的を達するという簡便法を採用するようになった。