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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

彼は翌朝、さっそく炭焼きの部落の一つへ行ってみた。そこを歩きまわり、炭焼の山の方へも行きかけてみたが、娘の姿を見かけることは出来なかった。

その翌日、彼はちっとも懲りず、別の炭焼き部落へ行ってみた。

すると山道の泉の下へバケツ一ぱいの洗濯物をもち出してジャブジャブやっている女を見たが、それがお園であると分ったときには、彼も思わず立ちすくんでしまった。

その山道のふちにある荒壁にコッパをふいて石をのっけた廃屋のような農家を、

「お前はこゝへお嫁にきたのか」

「いゝえ、私の生れたうちでございます」

お園は笑ったが、あかるく澄んだ顔であった。彼と二つ違いだから、今年は二十七であろう。昔は可愛く、小さく、クリクリしていたが、今は健康な、土の命をうつしたような逞しい農婦になっている。あのころ可愛いゝと思った顔は、まだいくらか面影はあるが、頬はこの冬空にも陽やけして光り、その手は女中の手ではなく、農婦の逞しくふくれ、盛り上って荒れきった大きな手であった。

明るい素直な笑い方に昔の面影が最も多く残って彼の胸にあるなつかしさを感じさせたが、そのほかには、あまりにも昔と違う別の一人の農婦に変り果てゝいる。