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ふかがわにょうぼう

深川女房

小栗 風葉

「新小説」1905(明治38)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页

青空文庫

火が見えたのである。清住町へ着いたのはちょうど五時で、家の者はいずれも夕飯を済まして茶を飲んでいるところであった。

「婆やさん、私が出てから親方はどんなだったね?」

「別に変った御様子も見えませんでございますよ。ウトウト睡ってばかりおいでなさいましてね、時々床瘡が痛いと言っちゃ目をお覚ましなさるぐらいで……」

「お上さんが出なさるとね、じき佃の親方が見えましたよ」と若衆の為さんが言った。

「おや、そう。それでいつ阿父さんは帰ったね?」

「つい今し方帰っておいででした。何ですか、昨日の話の病人を佃の方へ移すことは、まあ少し見合わせるように……今動かしちゃ病人のためにもよくなかろうし、それから佃の方は手広いことには手広いが、人の出入りが劇しくって騒々しいから、それよりもこっちで当分店を休んだ方がよかろうと思うから、そう言ってたとお上さんに言えってことでした。明日は朝からおいでなさるそうです」

お光は頷いて、着物着更えに次の間へ入った。雇い婆は二階へ上るし、小僧は食台を持って洗槽元へ洗い物に行くし、後には為さん一人残ったが、お光が帯を解く音がサヤサヤと襖越しに聞える。