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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
「中央公論」1920(大正9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页
そんな時、何時ともなく誘われかけていた自身に気付く正隆は、慄(ぞ)っとして心を震わせながら、この話がどこまで進行していても、破約にしてしまう。二度も三度も、正隆はこんなことを繰返した。俺を使う人間はいやしないのだ、と表面は、辛うじて傲語しながら、彼は酒を煽った。そして、下等な女の処で夜を明す。その時、蒼白い正隆の魂は、どれほど顫え、啜泣きしているか、誰も知る者はなかった。知らずに、彼を非難した。彼が、彼等の中に存在している以上、知らず知らずいかなる点で、彼を苦しめているかも思わないで、攻めらるべきための存在のように彼を非難したのである。
人々にとっては、正隆が、夫人が逃げ出すほど乱暴をして心配させて置きながら、気を入換えて仕事に努力しようとしないばかりか、正房を放ったまま、酒を飲み、女に耽ることを、非常な自堕落、無感動として、攻撃したのである。
「けれども、それなら、誰が、俺の一生を通じて責任を持ってくれるのだ? 自分が希望を持って努力すれば、丁度好い加減の処で、がらがらと崩して絶望させてくれるだろう。絶望させて置きながら、絶望しておれば、貴様等はまた、それで咎める。