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おんじょうのゆたかななつめさん
温情の裕かな夏目さん
内田 魯庵
「新小説 文豪夏目漱石号」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,980 字 · 6 页
よし新聞や何かで断片的には読んでいるとしても、私はやはり初期の作が好きだ。特に短篇に好きなものがある。「文鳥」のようなものが佳いと思う。「猫」、「坊ちやん」、「草枕」、「ロンドン塔」、「カーライル博物館」、こんなものが好きだ。
要するに夏目さんは、感覚の鋭敏な人、駄洒落を決して言わぬ人、談話趣味の高級な人、そして上品なウイットの人なのである。我が文壇にはこの方面で独自の人であった。夏目さんには大勢の門下生もあることだが、しかし皆夏目さんの後を継ぐことはできない傾向の人ばかりのように思う。ただ一人此処に挙ぐれば、現在は中央文壇から遠ざかっているけれども、大谷繞石君がいるだけである。この人は夏目さんの最も好い後継者ではあるまいか。
そしても一つ付加えれば、夏目さんは、殆んどといっても好い位い西洋の新らしい作を読んでいないと思う。
それは三、四年前に、マローの『ファウスト』とかスペンサーの或る作とかを頻りに耽読していられた事から見ても解るであろう。