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こすいとかれら

湖水と彼等

豊島 与志雄

「新思潮」1914(大正3)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,351 字 · 25 页

青空文庫

そしてもう一度神に感謝しなければならないと思った。

彼女は渚へ下った。そして暫く其処に立っていた。

「お早う!」と云われたので後ろを向くと、かの青年が立っていた。

「先日は……。」と云って彼女は軽くお辞儀をした。

青年は興奮していた。躍っている胸をじっと押えつけているような表情をした。眼を一杯に見開いている。生々とした色が頬に流れている。彼女は先日の午後を思い出しながら、妙な気をしてこう云った。

「晴れた朝は気持がよろしゅうござんすことね。」

「ええ、」と答えたが彼は暫くしてつけ加えた。「あなたの生活はほんとに羨ましい。」

「いいえ今のうちだけのことです。夏から紅葉にかけてはお客で忙しくって、それにまたこれからは退屈な冬がやって来ますからね。……と云って別に何も怨むのでもないのですけれど。」

「日本に修道院があって……それにお入りなさるとよかった。」

「え?」

「今日のような朝、修道院の庭はどんなにか清らかでしょう。其処に跪いてじっと神を祈る人の頬には、感謝の涙が流るるでしょう。」

彼女はふと我知らず淋しい気持ちに包まれた。で何とも答えないで青年を見ると、彼は唇を円くしてフーッと息を吹いている。