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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
四十分ばかり漕ぐと、深良の川口に着いた。俺は手を貸して陶をボートからおろし、財布のまま金を懐へ押し入れてやった。陶はお辞儀をすると、甲斐甲斐しく裾を端折って、笹原の中に細くついている小道へ入って行った。ボートを漕ぎ返しながら振返って見ると、陶は小高いところに立って、こッちを見ていた。
玄関脇の控ノ間へ行ってみると、白布で蔽った骸を戸板に乗せ、その周りに家傭どもと村の者が畏まっていたが、俺の顔を見ると、駐在所の巡査が恭しい手つきで白布を捲りあげた。
死体は鯨の脂肪肉かアルコール漬の胎児の標本かというような白けた冴えぬ色をし、わずか耳の上に残った五六本の髪の毛が眼玉の抜けた眼窩に入りこみ、耳の穴から青々と水藻が萌えだしている。脇腹の肉が無くなって、肋骨の奥に魚の白子のような臓腑が透けて見え、胴中に巻きつけた繩の端が尻尾のように尻の下から喰みだしていた。
誰か知らせてやったのだとみえ、高木が真ッ青な顔をして駆けつけて来たが、一目見るなりウーッと奇妙な声をだし、泣かんばかりのようすで、
「アー、実にどうも、お気の毒なことをした」
と言って合掌した。
馬鹿馬鹿しく、忌々しく手も足も出ないような心持でジリジリしていると、巡査は不愛想な俺の顔を見て、悲歎に暮れているとでも感ちがいしたのか、諄々と弔辞を述べてから、