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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

てみな出入を禁じてしまった。

その秋、ある日父は俺を寝間へ呼びつけ、いかにも苦々しい口調で、

「貴様はイギリスへ行け、なにを学ぼうと勝手だが、それを役立ててはならん」

といきなりに申し渡した。

「その気があるなら、生涯アチラに居ッても差支えない。俺が死んだからとて、帰国するには及ばん。貴様の行末が気にかかって、眼を瞑れぬなんてエのは、マー俺にはないことだ」

と言うなり、クルリと向うへ向き返ってしまった。

父は貴族政治を夢想し、俺をその方の大立者にするつもりだッたのだが、実現しそうもないのを覚って、こんな自棄的な処分を思いついたのだろう。俺とても父を愛しておらぬし、窮屈な父の膝下から解放されるのは何にも優してありがたかッたから、早速外遊の仕度にとりかかり、その年の十二月、横浜解纜の英船メレー号に便乗して、匆々に日本を離れた。

翌年一月、英国に到着、最初ウォールミンスターのグランマー・スクールに入り、その後、倫敦のユニヴァーシチー・カレッジの法科へ移った。遊ぶにしても、それくらいなところに籍を置かなくては巾がきかぬと思ッた迄で、勉強する気などは毛頭ない。