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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页
それとはあんな御気性だから、怪我にも仰有りはしないけれども、何をいったって、初めて男を知ったお姫様だ。貴方が内を出てからは、鬱々として人にもお逢いなさらない。
医者は神経衰弱だというそうですが、不眠性に罹って、三日も四日も、七日ばかり一目もお寝みなさらない事がある。悩みが一通じゃない。この間もうとうとしかけた処へ、縁側を通った腰元が跫音を立て、それがために目が覚めたといって腹を立って、小刀を投付けて、もうちっとで腰元の胸を突こうとしました。
この頃じゃ、まるで一室の外へも出て来ないような始末。見かけはどんなでもよくよく心を知ってるのは、乳母だから、私に帰れ。
承れば大分御謹慎で、すっかりお品行も治ったそうだって、そういうことでございました。
随分片意地な老女が、我を折っていましたから嘘じゃあありますまい。
成程それではあんな夫人でも私をそれまでに思ってくれるのが解りましたが、こうなった上のこと。
謹慎をしているのは、あえて辛抱を見せて、玉司の家に帰りたいためではないから、断然、これッきりだと思ってくれ、私の引籠って身を責めているのは、ただ先祖に対して済まないと思うからだ。