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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页
犬張子
三十九
へへ、詰らねえもんだけれど。」
と少し見せたくもあって件の莨入を抜く。円輔は打返して捻ッて、
「罷り間違えば、手前にこのお腰のもの、ちょいと武士に二言はなしかね。」
「いや、江戸ッ児だ。」と誰かの声色で、判然となる。
「豪い?」と大声で、ぴたりとお辞儀をした、円輔は驚いて顔を上げる。
二階から蝶吉の声で、
「富ちゃん! 富ちゃん。」
犬張子
三十九
「はァい。」と引張って返事をして、雛妓は膳を摺らして立ち、段階子の下で顔を傾けて、可愛らしく、
「何、姐さん。」
「あのね、私は今夜塩梅が悪いから、どこから懸って来てもお座敷は皆断って下さいな、そして姐さんがお帰りだったら済みませんがお先へ臥りましたッてね。」
「はい。」
「可いかい。」
蝶吉は、帰るとその時まで何をするともなく可厭な心持で、箪笥の前にぼんやり立っていたのであった。
雛妓に言付けて、座敷を斜に切って、上口から箪笥の前へ引返すと、一番目の抽斗が半ば開いていた。蝶吉は衝と立って、
「おやおや、私が開けたのか知ら、」
と思い寄らず呟いた。抽斗には、神月の写真をいつも立て掛けておくのである。
ふッつり切られてしまってからは、人は見なくッても、神月は知らないことでも、蝶吉は何となく、その写真を見ることさえ、我身で儘ならぬようで儚いので、あえて、今は仇なれと、偲ぶ思の増すのが辛