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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页
ひやりと応えて、
「何だってね、」
「婆さん、もう一燻※とやりゃどうだ。」
といいながら突込むように煙管を納れた、仕事に懸る身構で、頭は素知らぬ顔をして嘯きながら、揃えて下駄を掻掴めり。
形勢穏ならず、源次は遁足を踏み、這身になって、掻裂くような手つきで、ちょいと出し、ちょいと引き、取戻そうとしては遣損い、目色を変えて、
「頭、何ですから、急ぎますから、」
「跣足で駈出しねえ、跣足で。それが可いや、可恐しく路が悪いぜ。」
また一当当てられて揉手をして、
「穿いて行きますよ、よ、穿くんだから、頭失礼ですが、その。」
「穿かねえでさ、下駄は穿くに極ったもんだ。誰がまあ頂く奴があるもんか。だが、それ懐へ入れる奴は無えとも限らねえ、なあ、源坊。」
「私ゃちっと何だから、これから少し急ぐんですから、」
「どこへ急ぐんだ。どこへ、」
「ええ、ちっとその、何で。これから発句の会があるんです。」と捨鞭で歌を読むような見得をいった。
「発句の会、ああ、そうか。源、何、何とか云ったな、その戒名、いや俳名よ。待ちねえ、お前なんざあ俳名よりその戒名の方をつけるが可いぜ、おいらが一番下駄の火葬というのを遣って、先きへ引導を渡してやろう。