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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

半札の円輔

三十六

「私泣くんだから、あっちを向いても可くッて?」

梓は頭から寒くなったが、俯向いて頷くと、蝶吉は向むきになって屏風に影が映った、その胸をしっかり抱いた。

着物の振が両方から、はらりと迫って、身も痩せた。細々とした指の尖が、肩から見えて、潰し島田の乱れかかったのを、ふらふらとさして熟としていたが、折れたように身を倒す、姿はしぼんだごとくになり、声を殺してわっと泣いた。梓も耐らず、背向になった。二人の茫然した薄い姿は、件の秋草の中へ入って、風もないのに動いたと見ると、一人は畳へ、一人は壁へ、座敷の影が別れたのである。

半札の円輔

三十六

「さて早や、」と云う懸声で大和家の格子戸を開けて入る、三遊派の落語家に円輔とて、都合に依れば座敷で真を切り、都合に依れば寄席で真を打つ好男子。但しこの男が真の時は必ず御定連へ半札を出す例であるから、通称は半札の円公。鈴本が刎ねてあいにく繰込のお供も仕らず、御酒頂戴も致されず、家へ帰って妹じゃ間に合ずというので、近所だから大和家へ寄ることちょいちょい。さてはや半札の円公は、御神燈の下から、まず御馴染の顔色を御覧に入れますると、