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げんおじ

源おじ

国木田 独歩

「文芸倶楽部」1897(明治30)年8月10日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,455 字 · 23 页

青空文庫

山黒く海暗し。火影及ぶかぎりは雪片きらめきて降つるが見ゆ。地は堅く氷れり。この時若き男二人もの語りつつ城下の方より来しが、燈持ちて門に立てる翁を見て、源叔父よ今宵の寒さはいかにという。翁は、さなりとのみ答えて目は城下の方に向かえり。

やや行き過ぎて若者の一人、いつもながら源叔父の今宵の様はいかに、若き女あの顔を見なばそのまま気絶やせんと囁けば相手は、明朝あの松が枝に翁の足のさがれるを見出さんもしれずという、二人は身の毛のよだつを覚えて振向けば翁が門にはもはや燈火見えざりき。

夜は更けたり。雪は霙と変わり霙は雪となり降りつ止みつす。灘山の端を月はなれて雲の海に光を包めば、古城市はさながら乾ける墓原のごとし。山々の麓には村あり、村々の奥には墓あり、墓はこの時覚め、人はこの時眠り、夢の世界にて故人相まみえ泣きつ笑いつす。影のごとき人今しも広辻を横ぎりて小橋の上をゆけり。橋の袂に眠りし犬頭をあげてその後影を見たれど吠えず。あわれこの人墓よりや脱け出でし。誰に遇い誰れと語らんとてかくはさまよう。彼は紀州なり。

源叔父の独子幸助海に溺れて失せし同じ年の秋、一人の女乞食日向の方より迷いきて佐伯の町に足をとどめぬ。