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ひのついたかかと

火のついた踵

宮本 百合子

「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页

青空文庫

少し云い過ぎかもしれないが、僕から見れば、あなただって、自由が最も必要な時期がすんでから、その必要を高唱し得るのだ。びっくり箱の蓋を開ける前に、中から大凡(おおよそ)どんな形のものが出るか、予め教えて下さっただけ、他人(ひと)の親より、あなたの御両親は優種だった。

みさ子 奥平と交際させてくれたこと? 比較すれば、有難く思わなければいけない訳ですわね。だけれど――(苦笑)奥平もその時は、未婚者で、私の家に遊びに来て、まさか――数字ばかり書いてもいられなかったでしょう。

谷  はははは。然し、何ですね――(躊躇する)

みさ子 (無邪気に)なに?

谷  いや――

みさ子 ――(次第に亢奮が鎮る。先刻から自分と谷とばかり喋っていたのに心付き)まあ、随分ひどい御主人役ね、一人で喋り込んで。

(先ほどから、硝子扉の傍の椅子にかけ、独りでレコードを見ている英一に)

みさ子 どう? 何かお気に入りそうなのがあって?

英一 大分殖(ふ)えましたね。

みさ子 シャリアピンやなにかのが来たからでしょう?

(立って、英一の処へ来る。英一椅子から立ち、みさ子を掛けさせる。余り浮かぬ顔。ヌックの方で、こちらに背を向け庭を見ている谷の方を一寸見、低声に)